人里離れた集落にある古い駅舎。そこにいたのは頭を剃った作務衣を着た男性だった
あれは秋に温泉に入りに地方へ行った帰りのことだ。
俺は以前から連絡を取り合っていたこの地方に住む「ある人」と会う約束をしていた。
『19時に⚪︎×駅の駅舎で待っててください』
日が暮れかけようとしている秋ののどかな田園風景の中、
19時にその駅舎に到着するように俺は車を走らせた。
すっかり日も暮れたころ、その駅舎に到着した。
小さな集落の中にその駅舎はあった。
駅舎に到着したとき、ちょうど2両編成の電車が出ていくところだった。
遠ざかっていく電車。
誰も降車しなかったようで電車が去ったあと周囲は静まり返っていた。
本当にこの駅舎で間違いないのか不安を感じながら
俺は古い駅舎の引き戸を開けた。
古い駅舎の引き戸を開けると、作務衣を着た頭を剃った凛々しい顔立ちの男性が立っていた。
「遠くからよく来てくれました。着いてきてください。」
俺は作務衣姿の男性のあとを着いて行った。
田舎の真っ暗な集落の道で、所々にある古びた街灯が不気味に夜道を照らしている。
そして、その男性が小道を曲がった。
夜のお寺とは不気味である。
薄暗い廊下。
綺麗に磨かれた黒光りする床を歩くと、きしむ音が鳴る。
和室に通されて、その作務衣姿の男性は丁寧にお茶を出してくれた。
妻に先立たれて、独りでこのお寺に住んでいるという僧侶。
お茶を飲みながらしばらくの間、他愛もない会話をしていた。
そして会話が途切れた。
少しの沈黙のあと、僧侶は口を開いた。